6種類のカクテル

Plaza
Professionals

「カクテルに、多様性を認める社会への願いを込めて…」

料飲宴会部 エグゼクティブ アドバイザー
  渡辺一也 

世界各地でLGBTQ+の権利を啓発する活動やイベントが実施される6月の「プライド月間」に合わせ、LGBTQ+フレンドリーをテーマにオリジナルカクテルを創作した渡辺一也。
いつの時代も新しい扉を開いてきた渡辺に、今回のカクテルに込めた想いとその魅力を聞きました。

レインボーフラッグの
6色それぞれがもつ意味を、6杯のカクテルに

6種類のカクテル

― 社会的関心の高いテーマに取り組んだ今回のカクテル創作。その企画意図とは…。

まず京王プラザホテルが“国や人種を越えて幅広いお客様が集い憩う広場(プラザ)でありたい”という「プラザ思想」を開業時から掲げてきたこと、さらにこの新宿エリアは昔から多様性との親和性がある土地柄ということで、LGBTQ+フレンドリーをテーマに何かできないかと考えたのがはじまりです。カクテルには2種類以上の素材を混ぜることによって新しい味わいをつくり出すという基本的な定義があり、個性のあるものを混ぜて調和させていくところは、多様性を重んじるテーマと近いものがあると感じました。

カクテルには、相手にメッセージを届けるという役割があると思います。そういう意味で「こんなカクテルをつくりました」と発信することで、LGBTQ+の話題から京王プラザホテルの多様性への想いなどを知っていただくことにつながればと考えました。

― レインボーフラッグをモチーフにしたカクテルの特徴は…

活動のシンボルとして知られているレインボーフラッグの色をテーマに、それぞれの色がもつ意味に寄せてベース素材や提供スタイルを変えてつくりました。味わいはもちろん、色の美しさをどう表現するかもこだわった点です。さらに、レッドの「セレブレーション」以外の5種類のカクテルは、すべてこの企画のために考案したオリジナル。クラフトジンや麹スピリッツなど、今、世界中から注目されている日本の素材を使った新作カクテルという点もお楽しみいただきたいと思います。

カクテルというのは今回のように色や地域、歴史上の人物や情景など、さまざまな表現ができるお酒です。そして背景にあるストーリーを知って飲むことによって、味わいの深みを感じるというのが大きな魅力のひとつです。我々バーテンダーにはお客様にお酒の楽しさをしっかりお伝えするという大事な役割があるため、今回のカクテルもどんなイメージでどのようにつくられたかなど、お伝えするストーリーとともに味わって楽しんでいただければうれしいです。

準優勝の悔しさが生んだ伝説の「セレブレーション」
カクテルが自分をここまで引き上げてくれた

カクテル「セレブレーション」

― 弱冠25歳で優勝した、バーテンダー憧れのHBA創作カクテルコンペティション。
  優勝カクテル「セレブレーション」の誕生秘話とは…

前年の1985年に「マリオネット」というカクテルで同じ大会に出場し、0.1ポイントの僅差で負けて準優勝。とても悔しい思いをしました。リベンジするにはもう一度ホテルの代表になって大会に出なくてはいけない。ホテルにもHBAの方にも喜んでもらえるものにしようと思い、ちょうど京王プラザホテルが節目の開業15周年、HBAの大会も15回目ということで、シャンパンベースのお祝いカクテル「セレブレーション」をつくって再出場したのです。

そこで何より意識したのは新しいスタイルへの挑戦でした。シャンパンを最後に満たすスタイルがスタンダードだった当時、先にシャンパンを注いだ後にシェークした残りの材料を注ぎ足すというつくり方は意表をつき、「手順を間違えたのでは?」という雰囲気で会場がざわつきましたが、私としては狙い通りでした(笑)。以後、シャンパンカクテルのスタンダードを塗り替えた革新的な一杯として評価をいただいています。

*HBA:一般社団法人日本ホテルバーメンズ協会(Hotel Barmen's Association. Japan)

― これまでを振り返って、カクテルとはどのような存在…?

私にとってカクテルは、自分をここまで引き上げてくれたものです。ホテルには誕生日や結婚記念日、企業の周年行事など、お祝い事がたくさんあります。そんなとき、何かおつくりしましょうということで「セレブレーション」をお出しすると大変喜んでくださる。私だけではなく他のバーテンダーも「これは渡辺がつくったカクテルなんです」とお客様に出してくれますし、他のホテルでも同じことがあり、私と「セレブレーション」が一緒になって広がっていった。

今は技術や知識、経験値もすごい人がいますし、優秀なバーテンダーは本当に多くいますが、私がここまで来られたのはまさに「セレブレーション」のおかげだと思っています。

コロナ禍で得た新しい発見
お酒の楽しさ、バーの素晴らしさをもう一度発信

渡辺一也

― 今後の目標やカクテルへのさらなる想いは…

このコロナ禍でお酒の提供ができなくなった時は本当にショックでした。実は1920年にアメリカで禁酒法が施行されたときに職を失ったバーテンダーたちがヨーロッパに渡り、そのことによってヨーロッパにカクテル文化が広がっていったという歴史があります。

私たちもコロナ禍をきっかけに何かが変わったといわれることに取り組もうと、新しいサービスを模索し、夕方の2時間だけ45階のクラブラウンジでご宿泊のお客様にカクテルを目の前でつくってご提供したのです。初めてカクテルを飲むというお客様も結構いらっしゃったのですが、対面での直接的なコミュニケーションが少なくなっていたなかでとても喜んでくださり、カクテル談義に花が咲いたり一緒に写真を撮ったり、手書きのメッセージをくださったりと、一気に距離が縮まった雰囲気になりました。翌日ホテル内でお目にかかる機会があると、もう親戚のような親しさでお声がけくださる(笑)。
バーのカウンターでカクテルをご提供する時とは違う、異なるシチュエーションでのお客様の反応は新鮮味があり、新しい発見でした。初めてのお客様にも笑顔を生むカクテルの底力、素晴らしさをあらためて教えてもらったような思いです。

今後はこの経験を生かし、コロナ禍でリセットされてしまったお酒の楽しさやホテルバーの魅力を、カクテルを入り口にして広く再発信していきたいと思います。

―これからのバーテンダーたちに伝えたいことは…

カクテルは、嗜好の変化や多様性から、新しい味わいやスタイルが生まれ、進化しています。常にアンテナを張り、情報を収集し、感度を高め、斬新な発想のカクテルを世界へ発信してほしいです。また、人との関わりを広げ、新たな気付きや刺激を受けることで成長につなげてほしいと思います。

―では最後にひとこと

今回のカクテルもそんな出会いや気付きのひとつとして、これまでLGBTQ+に関心がなかった方にも召し上がっていただき、多様性について考えるきっかけになれば嬉しいです。

レインボーフラッグ「PLAZA Pride Cocktail」

▲ レインボーフラッグ

レインボーフラッグはLGBTQ+の尊厳と社会運動のシンボルとして作られた旗。
虹色は6色でそれぞれに、レッドは生命(ライフ)、オレンジは癒し、イエローは太陽、グリーンは自然、ブルーは調和(ハーモニー)、パープルは精神(魂)の意味が込められているという。

6種類のカクテル

▲ 6種類のカクテル

カクテルに使用した素材

▲ カクテルに使用した素材

1.「セレブレーション」(レッド - 生命)
1986年以来、京王プラザホテルのシグネチャーカクテルとして長く愛されてきた一杯。
シャンパンに甘酸っぱい木苺のリキュールが寄り添う、人生の門出を華やかに彩る気品あるカクテル。
2.「ボタニカルヒーリング」(オレンジ - 癒し)
伝統的なジンの風味(ボタニカル)と、華やかなラベンダーとエルダーフラワーのフローラルな香りに癒されるカクテル。
3.「ソラーレ」(イエロー - 太陽)
麹由来の豊かな味わいと華やかな香りをもつスピリッツ「TUMUGI」に、太陽の国イタリア産のアマレットのクリームリキュールを加え、ターメリックで鮮やかなイエローを演出したカクテル。
4.「ネイチャーグリーン」(グリーン - 自然)
伝統的な蒸留機を使用してつくられるカフェウォッカをベースに、杉や檜フレーバーのジン、ビターを加え、森の豊かな自然を感じさせるカクテル。
5.「ブルーコンチェルト」(ブルー - 調和)
個性豊かな世界五大ウイスキーの原酒をブレンドし絶妙なハーモニーを奏でるウイスキー「碧AO」をベースに、酸味と甘味との調和を感じさせるカクテル。
6.「紫魂」(パープル - 精神)
杜氏の魂を込めて生み出される日本酒をベースに、巨峰リキュールの芳醇な甘味と爽やかなゆずの苦味がバランスよく溶け込んだカクテル。

料飲宴会部 エグゼクティブアドバイザー 渡辺一也 Kazuya Watanabe

料飲宴会部 エグゼクティブ アドバイザー
渡辺一也 Kazuya Watanabe

1979年入社。
1984年サントリーカクテルコンペティション‘84グランプリ受賞。
HBA創作カクテルコンペティションに1985年準優勝、1986年優勝。
ホテルバーメンの資質向上、カクテルを中心とした料飲文化の普及・発展に取り組んだ活動が認められ、2005年東京都優秀技能者(東京マイスター)知事賞受賞。
2006年、最年少で日本ホテルバーメンズ協会会長に就任。
2011年、厚生労働省 卓越した技能者表彰「現代の名工」を受章。
2012年、シャンパーニュ騎士団シュヴァリエ認定、同11月黄綬褒章受章。
2016年、京王プラザホテル料飲部長に就任後、2021年より現職。
日本ホテルバーメンズ協会 名誉顧問。