取締役総料理長 佐藤 進一

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「人を幸せにする料理を作る人財を育てる。それが総料理長の役割だと思っています

取締役 総料理長
 佐藤 進一 

この春、栄誉ある黄綬褒章を受章した総料理長の佐藤進一。
日本におけるフランス料理界の重鎮である名誉総料理長 緑川廣親の薫陶を受けながら、入社以来40数年にわたりフランス料理の知識と技術を積み重ね、常に新しいチャレンジを続け、後進の育成や広く食文化の発展にも寄与してきた佐藤に、受章の喜びと総料理長としての今の想いを聞きました。
*黄綬褒章:業務に精励し、他の人の模範となる技術や事績をもつ者に授与される褒章。京王プラザホテルでは7人目の受章となります。

感謝しかない褒章受章
将来に続く人たちの目標になればありがたい

黄綬褒章

― あらためて、受章された感想を…

料理人としてやってきたことを振り返ると、ずいぶん長い道のりであったと思うと同時に、私を導いてくれた先輩や一緒に働いてきた仲間がいたからこそ、今回の褒章をいただけたと思っています。一人ではきっとここまで来られなかったと思いますし、支えてくれた仲間や指導してくださった方々に感謝でいっぱいです。

― 先輩や同僚からはどのような声が…

おめでとうございます、すごいよね、と言ってくれるのですが、自分としてはすごいという感覚はまるで無く、将来に続く人たちがこんなふうになれたらいいなと少しでも思ってくれるなら、幸いだなと思います。

大家族の中で培われた料理への道
ホテル入社1年目の学びは今も鮮明に

― 料理人を志したきっかけは…

9人きょうだいの8番目で、幼い頃から上の兄や姉たちに何か作れとご飯作りをやらされる立場でした。そのうち、どうせ作るなら美味しい方がいいといろいろ工夫するようになり、「料理って楽しい」「美味しいって言われるとうれしい」と(笑)。その想いがずっと続いて中学、高校と進むうちに料理人が将来の夢になっていきました。高校2年の時に「フランス料理をやりたいがどうしたら…」と担任の先生に相談したところホテルで働くことを勧められ、ホテルの料理人を目指すことになりました。フランス料理なんてまるで知りませんでしたが、かっこいいなと(笑)。
高校時代はお弁当を毎日自分で作っていて、どうしたらきれいに見えるかなど当時から考えていましたから、そんなこともきっかけといえばきっかけです。

― 京王プラザホテルを選んだ理由は…

フランス料理をやるならこんなホテルが良いのでは…と、先生から候補をいくつかもらって見学しました。そのなかで京王プラザホテルの白い外観と優美な佇まいを見て「こんなかっこいいホテルはないぞ」と。

― 入社後は最初から調理部門へ配属されたのですか?

一年間はウェイターです。このウェイター時代の感覚や経験は今も鮮やかに蘇りますし、料理人としての基本的な考え方を学んだ時期といえます。何もかもが新鮮で、お客様が何を望まれているのかとか、美味しい料理を食べるとお客様はこんなにうれしそうな顔をされるのだなとか、いろんなことが感じられて、自分は料理人を目指していながらも、ホテルのサービスやレストランという空間がきらびやかに輝いて見えて、とても楽しかったですね。

― 学びの多い一年だったのですね。

今も「料理はお客様の顔を思い浮かべてから作るもの」と思っていますし、若い人たちに言ったりもしています。お客様を確認する、もしくは想像すること。のちにシェフになってからもお客様が残された料理はないかとお皿を見に行ったりしていましたので、それはとても大事なことだと思っています。料理は作ったら終わりじゃない。お客様がどんな表情でどう感じながら召し上がっているか、料理人として最後まで見届けること重要だと。
私の料理への基本的な考え方は、その一年で学んだことですね。

料理も人生のように変化していくもの
伝統をしっかり継承しつつ、「らしさ」を追求

― その後、27歳でフランス料理〈アンブローシア〉に配属。ここでの印象深い思い出とは…

フランス料理〈アンブローシア〉に配属になった1990年は、自分にとってターニングポイントになりました。それまで7年間メインキッチンにいて、コンクールで賞をいただくなど自分としてはなんでもできるつもりでいました。ところが異動してみたら材料の名前さえ知らないものばかりでカルチャーショックでした。
そのような中、1991年と92年に、世界的シェフのアラン・デュカス氏を招聘するイベントが開催されました。その妥協のない仕事を間近に見た時、料理がすごいのは当たり前ですが、グルメイベントを成功に導くための徹底した準備と緊張感、心の持ちよう、姿勢というのが何より重要なのだと衝撃を受けました。全スタッフが同じ緊張感をもった時の調理場の雰囲気というのが本当にすごい世界でしたし、自分がそこに身を置いた時に料理人という職業は素晴らしいなと再認識できたのです。こういう得難い経験をさせてもらったことに心から感謝していますし、私も含め調理スタッフがみんな大きく成長するきっかけになりました。

― 〈アンブローシア〉での時間が、料理人としてかけがえのない財産になっているのですね。

とくに料理長になってからはプレイングマネージャーという立場で「やらないことの難しさ、大切さ」というのを覚えました。自分でやってしまえば解決するようなものも自分でやらずに、やらせて教えて導いていく。料理も知識や技術だけで終わってしまってはだめで、それを次に続く人たちにしっかり伝えて再現するところまでが料理人の役割だということです。

― 今、総料理長として大切にしていることや、やりがいとは…

何よりもスタッフとのコミュニケーションが大事ですから、1日2回は現場に声をかけて回るのをルーティーンにしています。やはり声に出して伝えるということが大事で、そのなかで学びの姿勢をしっかり伝えてあげること。今日は何を伝えようか、奮起したり元気づけたり、どんなことがインパクトを与えるのか、そんなことを朝の風呂の中であれこれ瞑想して考えて出社するわけです(笑)
また、自分を振り返ってみても、「がむしゃらにやる=努力」の時代はいちばん重要でした。しかし、なぜ努力をするのか、その理由や目的などに若い時はなかなか気がつかないのです。そのため、私が〈アンブローシア〉で得たような思いをみんなに経験させてあげることが重要で、そういう機会を数多く作ってあげることが総料理長として大事だと思います。
さらに料理というのは人を幸せにする、できるということが魅力です。ですから、「人を幸せにする料理を作る人財を育てる」のが総料理長の役割で、やりがいもそこにあると思っています。
実は高校一年の時に亡くなった父から、「人を導く仕事をしなさい」と常々言われていました。はからずも今、料理人でありながら若手を導く立場になったことで、父が願った夢も叶い、本当に幸せに思っています。
ちょっと大袈裟かもしれませんが料理で人を笑顔に、幸せにして、それが世界の平和につながればいいなと本気で思っていますし、総料理長としてそんな夢の実現ができるかもしれない立場にいるということが、私にはとても幸せです。

― 最後に、京王プラザホテルの料理の魅力とは?

緑川廣親に師事し、1990年代にアラン・デュカスに感銘を受けた自分が大切に思うのは「料理はシンプルであるべき」ということです。余計なことをしない、奇をてらわない、シンプルに美味しいと思うものを表現していく。そしてまさに「料理は生きている」ので、この半世紀にわたる歴史の中で培った伝統をしっかり継承しつつ、少しずつ変化をさせてゆくというのが京王プラザホテルの料理の「らしさ」であり魅力だと思います。

取締役総料理長 佐藤 一 Shinichi Sato

取締役総料理長
佐藤 進一 Shinichi Sato

1981年入社。
ウェイターを経て1990年、フランス料理〈アンブローシア〉に配属、2007年料理長に就任。2013年、京王プラザホテル八王子 総料理長に就任。2021年より現職。

2019年 関東運輸局長表彰、日本食生活文化財団 食生活文化賞受賞
2022年 国土交通大臣表彰、東京都優良調理師知事賞受賞
2024年 黄綬褒章受章

VOL.100 次の半世紀へ、新たな挑戦を続ける京王プラザホテル