受章の証書に記された
『ホテルのスチュワードとして』
の文言に感慨ひとしお

― 改めて、受章した感想は…
大変光栄なことと感謝していますが、全く予想もしていませんでしたので、なぜ私が…と、戸惑っているのが正直なところです。一緒に働くスタッフ達がとても喜んでくれて、反響の大きさにびっくりしています。
― お客様からは見えない裏方の仕事が評価されたことは、嬉しかったのでは…
受章の際に褒章とともに受章理由が記された章記(証書)をいただいたのですが、そこに「ホテルのスチュワードとして」と書かれていたのです。
かつてはスチュワードの仕事といえば「皿洗い」としか理解されていないことが多く、親にも胸を張って就職したことを言えない人もいたのです。そんな中で自分がこの職場を良くしていこうといきがって現在まで来たのですが、それが今回ちゃんとした職業として認められたような気持ちになり、感慨深いものがありました。
膨大な数の料飲器材をコントロールするスチュワード
より良い職場の仕組みづくりがやりがいになった

― 京王プラザホテルで働こうと思ったきっかけは…
私は北海道出身で、工業高校の電気科を卒業したのですが、就職を決める時に大自然を相手にする地元での仕事はやはり大変だなと思って(笑)。東京への憧れもありましたし、知らない土地に行ってみなければ世の中のことはわからないと感じていたので、東京のホテルのコックにでも応募してみようかと。たまたま就職案内の本に願書が付いていた京王プラザホテルの面接を受けて合格(笑)。スチュワードという職種を知ったのは配属されてからです。
― スチュワードの仕事を、簡単に説明するとどのような内容ですか?
館内で使うすべての食器の洗浄はもちろん、メインとなる業務は料飲器材のコントロールです。京王プラザホテルが保有する料飲器材は約1,300種類、計30万点に達します。その器材を把握して、日々のご宴会の規模や内容、また各店舗に合わせ、どんな器材をいつ、どのように振り分けていくか、緻密なオペレーションで器材の流れをコントロールしています。また、リクエストされる器材があればサンプルを取り寄せ、当ホテルの高い使用頻度に耐えられるかどうかの確認や器材の特徴・扱い方の注意、アドバイスまで、きめ細かな専門知識も必要です。ですからすべてをマスターするには、最低でも10年のキャリアが必要になります。
― 働きやすい仕組みづくりにも積極的に取り組まれたんだとか…?
スチュワードの仕事は機械の仕組みも理解していないと、導入している機械のメンテナンスができません。私は学生時代に図面の引き方を習っていたので、業者さんにいろいろ教えてもらいながら、洗い場の改良や厨房の設計なども引き受けるようになっていきました。その結果、働きやすいように導線を確保した全体図をオリジナルで作ることができました。また、こういう道具があればもっと速くできるとか、もっときれいになるとか、もっと良い方法があるのなら導入していくべきだと思っているので、ナイフ・フォークの拭き上げ機や研磨機など、うちのホテルに合った機械導入やシステム作りをやってきて、それが自身のやりがいにもなっています。
すべては、お客様の笑顔につながる仕事
そのプライドがホテルの食の安心・安全を支える

― 「縁の下の力持ち」と称されることが多いスチュワードの仕事ですが、これまで自身を支えてきたものは…
私は「縁の下の力持ち」という言葉はあまり好きではありません。すべてがお客様の笑顔につながる仕事として、スチュワードもシェフも同じ立ち場であると思っています。
中学校時代の校長室に『誠健勤和(せいけんきんわ)』と書かれた額があって、誠実に、健康で、働いて、仲良く、という意味ですが、今も覚えていて最終的な生き方につながっているかもしれません。「義理と人情とやせ我慢」で生きてきたのも事実なのですが(笑)。
―ホテルの歴史に重なる、この50年を振り返って想うことは…
一番印象に残っているのは1973年に京王プラザホテルが初めて受注したアメリカ・ギブソン社の大型インセンティブツアーです。他にはないユニークなパーティの演出で世界に京王プラザホテルの名を知らしめたものですが、2,500名を超えるお客様の対応に連日追われ、昼夜の感覚がなくなるほどでした。
また、昔はお皿の形や模様は3、4種類しかなく、宴会もレストランも使うのはみんな同じデザイン。それが時代の変化とともに、こういうものを使いたいというリクエストがどんどん増えていくわけですね。それに対処していくのも仕事でした。
今、都内のホテルで自社スチュワードを持っているところはほぼありません。1,000名規模の宴会を1日に2回、3回とまわせるのも、2,000名以上の大型宴会に対応できるのも、各部署の連携プレーに支えられているのはもちろん、器材を知り尽くした自社スチュワードのオペレーションが確立しているからだと自負しています。ですから、若い人たちには自信をもってこの仕事に取り組んでほしいと思います。そしてこれから先は、衛生管理士などの資格取得も必要になってくる時代です。アウトソーシングの会社とも対等に渡り合える組織になっておくことが大事で、先を見越して自分で勉強をしていかないと厳しい時代だと思います。
―では最後にひとことメッセージを
常に清潔で美しく整備された安心・安全な器材をお客様にご提供するというのが、私たちスチュワードの仕事です。それを貫いていくことが、スチュワードのプライドを保つ唯一のことだと思います。
私は不器用ですし落ち込むことも多いですが、自分で自分を励ましながら、どこかに必ず道はあると信じて生きてきました。だから、「あきらめるな」ということは伝えたいです。なんとかなるだろう、それしかない。とにかく、どこかに、新たな道はあるはずだ(笑)

調理部 スチュワード 統括マネジャー
山﨑欣一 Kinichi Yamazaki
1972年、入社。スチュワードに配属。
2006年、調理部スチュワード支配人就任。
2011年、関東運輸局長表彰 受賞。
2013年、調理部スチュワード 統括マネジャー就任。
2014年、国土交通大臣表彰 受賞。
2023年、黄綬褒章 受章。