調理部 セントラルキッチン ペストリー・ベーカリーセクションシェフ 石渡隆治 調理部 セントラルキッチン ペストリー・ベーカリーセクションシェフ 石渡隆治

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「伝統も、新作も。美味しさに、ホテルメイドの誇りと自信を込めて

調理部 ブーランジェ
 石渡隆治 

毎年多くのお客様にお楽しみいただく、京王プラザホテルのクリスマスケーキ。 なかでも開業時からの伝統のレシピで作る「シュトーレン」は、ホテルのシグネチャー・スイーツのひとつとして揺るがぬ人気を誇ります。
そこで1983年の入社以来、ペストリー・ベーカリー部門で長きにわたりホテルメイドの味を守り続けるブーランジェの石渡隆治に、受け継いできた「シュトーレン」へのこだわりや新たな美味しさへのチャレンジなど、ホテルの食を支えるプロフェッショナルとして大切にしてきた想いを聞きました。

人生を変えたバゲットとの出会い
パンも作れるシェフからブーランジェの道へ

バケット

― ホテルのブーランジェを志したきっかけは…

もともとは洋食のシェフになりたかったのです。ホテルの料理人というと、とてもステータスがあり簡単にはなれませんでしたが、1983年4月に京王プラザホテルに入社できることになりました。
入社後はウエイターを2年経験し、その後宴会調理を経て料飲の洋食レストランに配属され、そこで出会った先輩に料理の基本を教えてもらいました。今でもそうでしょうが、料理人は前菜、スープ、魚料理、肉料理からデザートまで全部作れて一人前だという認識があり、私も先輩についてデザート作りも教わりましたが、シェフのなかでパンも作るという人はいなかったのです。
そんな時にホテルのパンの美味しさにとても感動して、ベーカリーがホテルの中にあること自体知りませんでしたので、ここで作っているならぜひともパンも作れるシェフになりたいと思ったのがきっかけです。

― ホテルブレッドとの出会いが、背中を押したのですね…

バゲットやバターロールにとにかく感動して、希望してベーカリーへ異動させてもらいました。実は最初ダメだと言われたので、どうしても諦めきれず(笑)。当時はドイツ人の初代ベーカリー料理長のレシピが受け継がれていましたので、それを学んでから洋食に戻ろうと軽い気持ちで行ったのです。一通りパンのことを覚えたら戻るつもりだったのですが、そこでパンの魅力にはまってしまった(笑)。そのまま、気がついたら40年です。

パン作りは“生き物”との対話
楽しみながら、自信をもって、表に出せるパンを作る

調理部 セントラルキッチン ペストリー・ベーカリーセクションシェフ 石渡隆治

― シェフがそれほどはまってしまったパンの魅力とは…

みなさんはパンは“食べ物”だと思って買いますよね? でもパンが食べ物になるまでにはいろいろな工程があり、それはやはり “生き物”との対話なのです。材料は何グラムとか、生地を作るときの温度は何度とかちゃんと決められたレシピ通りに作っても、その日の気温や湿度の加減で毎日同じものにはならない。まさに「パンは生きている」のです。そうして対話しながら成形まで進んで最後に膨らませてオーブンで焼くと、そこで初めて食べ物になる。私にはそれがすごく魅力でした。

― 対話をしながらパン作りに向き合うなかで、いちばん大切にしてきたことは?

美味しいパンを作るには、自分が楽しみながら作るということです。これは若い人たちにも言っていることですが、自分で選んでコックコートを着てベーカリーで働いているのですから、楽しく作らないとパンに心が出てしまう。自信をもって表に出せるパンを作らないと、お客様に失礼ですよね。楽しんで、想いを込めて、美味しいパンを焼くことです。。

― ホテル内のレストランや宴会場で供されるパンは、ほとんどがブーランジェ手作りの自家製と聞きます。これまでのキャリアのなかで、印象に残る仕事とは…

コロナ前は毎日3,000個〜4,000個くらいを作っていたので本当に大変でした。今も早朝から営業している〈樹林〉の朝食やランチの準備で、3時半に出勤して仕込みを始めます。
思い出に残る仕事といえば、名誉総料理長の緑川廣親が腕を振るった数々の晩餐会や宴会に携わったことです。フレンチの重鎮として、料理だけではなくパンの知識が本当にすごいと感じておりました。一度や二度の試作では全くダメで何十回も作り直してやっとOKが出る。まさしく「料理に提供できるハード系のパン」のイロハを教えてもらいました。毎日勉強に追われ、本当に辛かったですがいい経験でした。それが大きな糧になってブーランジェとして生きてこられたと、今も感謝しています。

伝統も、新作も、京王プラザホテルの味
守りながら、更新しながら、繋いでゆく

抹茶シュトーレン

― 毎年手がけてきた伝統の「シュトーレン」へのこだわりとは?

私はやはり伝統は伝統として残したいと思い、意識をしてずっとやってきました。クリスマスケーキというと今はどこのホテルも力を入れていますし、趣向を凝らした華やかなものが登場するのが恒例ですが、ドイツ人の初代製菓料理長直伝のレシピを受け継いで毎年作っているのが、京王プラザホテルの「シュトーレン」です。開業から今年で52年、その歴史の中ではレシピを変えた時代もありました。しかし、やはり「これが京王プラザホテルの味」という声をいただき、復活させたのです。

― そして今年は、新作「抹茶シュトーレン」の登場も話題です。

私は自分のこだわりとしてアレンジしたシュトーレンは出さないと決めていましたが、自分の考えだけに固執するのではなく、時代に合った新しいものも取り入れていくのがいいのではないかと。それで3名のブーランジェに提案してもらい、試作を繰り返して誕生したのが「抹茶シュトーレン〜雅〜」です。若いスタッフの励みにもなりますし、お客様にとっても選べるのはいいことですよね。
濃厚でしっとりした抹茶生地に和栗や黒豆などの組み合わせが美味しいです。京王プラザホテルのもうひとつの「シュトーレン」として、こちらもぜひご賞味いただければと思っています。

― 次の世代へ渡すバトンは、伝統も、チャレンジも、というスタンスですね…

昔の良いところは残して、新たにチャレンジできるところはチャレンジしてもらえれば。実際、月替わりで出すマンスリーブレッドなどは私が思い付かないような新しい商品が出ていますし、今出している伝統のパンはどのスタッフもみんな作れる技術がありますから。ただ、伝統は一度断ってしまうと元には戻せない。

― では最後に、シェフにとってブーランジェの仕事とはどのような存在でしたか?

やっぱり、すべてですよね。自分で志したのは洋食のシェフでしたけれど、ブーランジェになって幸せだったなと思います。楽しかったです本当に。あとは周りの人に感謝する気持ちといいますか、自分のレシピをみんなが一生懸命作ってくれていることに感謝しなくちゃと思うようになれたのです。ですからブーランジェになって人間として成長できたかなという思いがあります。
これからも、ずっと死ぬまでパンは作り続けたい、パンと関わっていきたいと思っています。

◎「シュトーレン」は11月1日(水)より、「抹茶シュトーレン〜雅〜」は12月1日(金)より販売いたします。
※店頭での販売は数に限りがございます。

▼ご予約はプラザオンラインショップへどうぞ。
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調理部 セントラルキッチン ペストリー・ベーカリーセクションシェフ<br>石渡隆治 Ryuji Ishiwata

調理部 ブーランジェ
石渡隆治 Ryuji Ishiwata

1983年、入社。
レストランウエイターを経て、調理部調理宴会ガテマンジャー配属。
1987年、調理部ベーカリーへ異動。
アシスタントセクションシェフを経て2008年、調理部セントラルキッチンベーカリーセクションシェフに就任。
現在に至る。

VOL.96 初代シェフから受け継がれる、クリスマスの伝統菓子シュトーレン